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結構前に読んだのですが、孤高の刑事ハリー・ボッシュ シリーズのマイクル・コナリーの初リーガルサスペンス。LAの街を高級車リンカーン・タンカーで走りまわる中年の刑事弁護士マイクル(ミッキー)・ハラー。父親は高名な弁護士(ボッシュ・シリーズに登場しているよ!)、自分は二度の離婚、オフィスを持たず元妻を電話番としている、正義を貫くってわけでもない金儲け主義の弁護士。いい感じの汚れ具合です。彼が受ける仕事は「フランチャイズ」と呼ばれるセレブ相手の弁護。舞い込んだ事件は、不動産業の資産家の軽薄息子の暴行事件。これが胡散臭さ抜群のネタで。ミッキーは"依頼人を有罪にしない"という目的のためだけに奔走しますが、さすがに完全に割り切って処理することは出来ません。追い込まれるミッキーは、人としてどうするべきか苦悩します。ボッシュ・シリーズほど重くなく、適度にヘビーな骨太サスペンス。必読です。

2006年国際ミステリー愛好家クラブマカヴィティ賞最優秀長編賞受賞
2006年アメリカ私立探偵作家クラブシェイマス賞最優秀長編賞受賞

で、この小説の映画化権は発売より前に売れたそうで。トミー・リー・ショーンズがメガホンをとるらしく、主役はマシュー・マコノヒーらしく、ワタクシ的に後者にがっかり。ミッキーみたいな人間をマコノヒがやると、本当に薄っぺらになっちゃうよーって。ワタクシ脳内のミッキーはロバート・ダウニーJR.だった。アイアンマンのトニー・スタークの影響。仕事仲間のラウルは、デクスターのエンジェルで。絵的に濃いけどね。

brokenwindow.jpg傑作と言われている前作「ウォッチ・メイカー」の次の敵は、個人情報を支配する男。ネットを題材にしている「青い虚空」を思い出しますが、今回はもっと大規模で恐ろしい。そもそも、物的証拠を求めるリンカーン・ライムと、データという掴みどころのないものを操る犯人、土俵が違いすぎて不安であります。んが、ライムは常に自信満々ですから、犯人が存在する以上必ず痕跡は残されるはず、といつもの粘り強い捜査が続きます。同時進行でライムの従兄弟アーサーとの確執ストーリー、アメリカとパム・ウィロビー(誰だかなかなか思い出せなかった)の恋愛指南ストーリーが微妙に絡み合ったり。過去作品と比較すると今回は珍しく「どんでん返し」が無く少々派手さには欠けるものの、相変わらずの高水準をキープした逸品となっておりまして、大変楽しめました。

科学捜査の天才リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人の罪で逮捕された。自分はやっていない、とアーサーは主張するも、証拠は十分、有罪は確定的に見えた。しかしライムは不審に思う―証拠がそろいすぎている。アーサーは罠にかかったのではないか?そうにらんだライムは、刑事アメリア・サックスらとともに独自の捜査を開始、同様の事件がいくつも発生していることを知る。そう、姿の見えぬ何者かが、証拠を捏造し、己の罪を他人になすりつけ、殺人を繰り返しているのだ。犠牲者を監視し、あやつり、その人生のすべてを奪い、収集する、史上もっとも卑劣な犯罪者。神のごとき強大な力を持つ相手に、ライムと仲間たちはかつてない苦戦を強いられる…。

楽しめたという事を前提に、ちょっと辛口ネタバレ。

次のコニー・ウィリスは、裏表紙にロンドン地下鉄MAPが描かれてある「マーブル・アーチの風」、日本オリジナル短編集です。地下鉄マーブル・アーチ駅はセントラル・ラインでボンド・ストリート駅の隣。メジャーなショッピング・ストリートであるオックスフォード・ストリートはここから始まります。倫敦行った時は、メリルボーン駅からベーカー・ストリート駅まで歩いてから南下したので、マーブル・アーチは行きませんでした。ググってみると真っ白い門がありますね。この白亜の大理石の門=マーブル・アーチは、ヴィクトリア女王を記念して建てられたとか。NYのワシントン・スクエア・アーチ(こっちは普通の石)よりも高さが低いけど素敵な門だわ、うーん♪今度は是非行こう。

さて、表題作「マーブル・アーチの風」は、20年ぶりにロンドンを訪れたトムとキャスの夫婦のお話。ロンドンの地下鉄を愛するトムは、駅構内で奇妙な爆風に襲われます。しかも他の誰も気づいていない、おかしい。と思ったトムは、気味の悪い「風」の謎を解明しようと奔走します。が、本来の目的の大会(カンファレンス)や久しぶりの友人との会食や妻希望の芝居の切符取りなどで超多忙。トムは知恵をしぼって、いかに効率よく目的の用事を済ませるか必死に考えながらロンドンの地下鉄を乗りまくります。ピカデリーラインでここ行って乗り換えてここに出ればどこそこのチケット売り場に間に合う、その後また何々ラインに乗ってどこどこホテルまで戻り……という大慌てな行程すべてが、手にとるようにわかるってスバラシイ。地下鉄の駅と駅の距離感や、雰囲気や匂いまで思い出したりして。

といってストーリーはコメディではなく、夫婦間のちょっと軋んだ空気を漂わせていき、ミドルエイジ・クライシスの重苦しさが地下鉄の異様な「風」に喩えられ、夫婦の年月や距離感を浮き彫りにします。重い話になるのかなと思いきや、なんとも気持ちのいい締めくくり方。コニー・ウィリスって上手いな〜とひとしきり感心でした。

他の短編もすべて面白くて。侵略SFコメディの「ニュースレター」、ほんわかラブコメの「ひいらぎを飾ろう@クリスマス」、そしてスリリングなラブコメ冒険もの?の「インサイダー疑惑」など、映画になったらいいのに…と思うほどキャラクターが立っている逸品ばかりです。一番好きな作品は、ばかばかしい魅力に満ちた「ニュースレター」でした。これと「ひいらぎ…」はクリスマス・ストーリーだし、読後が爽快な気分になれるのでプレゼントにいいかもしれません。

すっかりコニー・ウィリスに夢中のワタクシ、現在は「ドゥームズディ・ブック」を読み始めています。「最後のウィネベーゴ」も待機中。通勤電車timeが楽しい楽しい。

「翻訳ミステリーシンジケート」というブログがスタートしたようです。
更新が楽しみなブログですね。

翻訳ミステリー大賞シンジケートとは?

 シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、エルキュール・ポアロ、ミス・マープル、エラリー・クイーン、フィリップ・マーロウといった主人公が活躍する翻訳ミステリーは、日本でも古くから紹介され、長く親しまれてきました。その伝統は今も受け継がれ、さらに多くの魅力的な主人公が新たに紹介されています。スペンサー、ミロ・ミロドラゴヴィッチ、マット・スカダー、ハリー・ボッシュ、ジャック・フロスト、リンカーン・ライムといった名探偵、名刑事たちです。しかし、残念ながら、日本における彼らの知名度はシャーロック・ホームズに遠く及びません。翻訳ミステリーの面白さは少しも変わっていないのに。いや、むしろ作品の質も量もより豊かになっているのに。

そんな現状に一石を投じ、ひとりでも多くの方々に翻訳ミステリーを手に取ってもらう一助になればと思い、このたび『翻訳ミステリー大賞』を創設しました(発起人=小鷹信光、深町眞理子、白石朗、越前敏弥、田口俊樹)。年間ベストを選ぶこの手の賞はすでにいくつもありますが、現在活躍中の翻訳者にかぎっての投票で選ばれるところが本賞の特長です。つまり、翻訳者が自ら選ぶ翻訳大賞というわけです。

本サイトはそうした翻訳ミステリー大賞を脇から支援する目的で、書評家、編集者、翻訳者の有志によって起ち上げられました。さまざまな角度から翻訳ミステリーの魅力について考え、みなさんが翻訳ミステリーをより広くより深く愉しまれるためのお役に立てれば、と思っています。翻訳ものにはこれまであまりなじみのなかった方から年季の入ったマニアまで、幅広い方々に愉しんでいただけるサイトにしていく所存ですので、どなたにもお気軽にアクセスしていただければ幸いです。なお、コンテンツは土日を除いて毎日更新される予定です。

言わずもがなながら、執筆者はみな翻訳ミステリーをこよなく愛する人々です。

翻訳ミステリー大賞シンジケート幹事 田口俊樹

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